彼は大学時代、少林寺拳法という武道に明け暮れた。少林寺拳法は二人組で型を競う演舞競技と、実際に技を使って戦う乱取りに分けられていた。
166センチ54キロ。
小柄な彼はいつも演舞競技は女子と組んで出ていた。
90キロくらいの後輩が入ってきたとき乱取りでお腹に会心の蹴りをクリーンヒットさせたのに、逆に弾き飛ばされ、無茶苦茶悔しい思いをした。武道は体重がものをいう。30キロの体重差はテクニックでは埋められない。
負けず嫌いの彼は翌日から増量を図った。
無理矢理食って稽古して、無理矢理食って稽古してを繰り返した。
75キロまで増量した。この体重でも見た目は太ってはみえなかっただろう。胸板分厚く、太ももはジーンズが入らないくらい太くなり、手首も掴めないくらいになった。こうなったら90キロにも当たり負けない。
20数年後…
年に一回くらいの温泉旅行で年に一回くらい測る体重をみた。
75.1キロ。
嬉しかった記憶が蘇る。かつてこの数字は苦労に苦労を重ねて勝ち取った数字。
あの頃に戻ったぞ!!
彼は鏡にむかって中段構えをとった。
…!?
そこにはかつての武人の姿はなかった。
進撃の巨人にでてくる奇行種のようなボヨンとしたおじさんの姿がうつっていた。
彼はひどく落ち込み、家族に人生最高体重を記録したことを報告した。
正月に暴飲暴食したからだよ。
昼ごはんに炭水化物ばかりだったからだよ。
確かに正月は暴飲暴食したし、冬休みで子供達がいると忙しいのでお昼ごはんは麺とか炒飯とか炭水化物が多くなる。
だがこの身長で75キロは重い。何とかしなきゃ。と彼は思った。
本日、冬休み最終日の彼の次女がランチに付き合ってくれた。
彼女の希望でパン。ザ炭水化物。
サンドイッチとチョココロネ。
彼はカツバーガー。
車の中で食うのがまた美味い。
「明日から痩せるメニューでお願い。父ちゃん、一緒にダイエットしようね!」
冬休みにYouTubeみまくってダラダラ生活をして太った彼女と誓いあった。
そういえば、夏休みも去年の冬休みも彼女とこんな誓いを立てていた気がするが…